小売り最大手の米ウォルマート・ストアーズと米グーグルは23日、インターネット通販事業で提携すると発表した。人工知能(AI)を搭載したスピーカーやスマートフォン(スマホ)に話しかけるだけで、ウォルマートの商品を注文できるようにする。同様のサービスは米アマゾン・ドット・コムが他社を引き離して先行しており、小売りとネットの巨人が手を組んで対抗する。
ウォルマートは9月下旬から、グーグルが全米で展開するネット通販・宅配サービス「グーグル・エクスプレス」に日用品など数十万点を出品する。グーグルが昨年発売した対話型AI搭載スピーカー「グーグルホーム」やスマホに話しかければ簡単に商品を発注できるようにする。
口頭での手続きを簡略にするため、ウォルマートは自社の通販サイトへの登録情報や店舗での購買履歴について、顧客が任意でグーグルに提供できるようにする。
ネット通販へのシフトが進めばウォルマートの雇用への影響が懸念される。ただグーグル・エクスプレス経由で受けた注文はこれまで通り、ウォルマートが自前の配送センターでさばき、顧客に届けるため、今回の提携による雇用への影響は小さいとみられる。
アマゾンは独自の対話型AIを搭載したスピーカー「エコー」を2014年に発売した。いわゆる「スマートスピーカー」市場の先駆者として7割超のシェアを握り、生活必需品を中心に「声で買い物する」消費スタイルを切り開いた。米国ではエコー所有者の半数以上が商品を注文した経験があり、その3割は週に1回以上買い物に使っているという調査もある。
ウォルマートのネット通販部門を率いるマーク・ロア氏は、グーグルについて「声で買い物する経験をよりよいものにするために、必要な自然言語処理技術とAIにかなりの投資をしてきた」と指摘した。
グーグルは13年にアマゾン対抗のサービスとして、グーグル・エクスプレスを開始。ショッピングモール形式の専用サイトには、会員制ディスカウント店「コストコ」やアマゾンが買収を決めた高級食品スーパー「ホールフーズ」など40社以上が出店しているが、最近は伸び悩んでいた。
2社は来年から、声で注文できる対象を生鮮品にも広げ、全米4700カ所にあるウォルマートの店舗で受け取ることができるサービスを始める計画。グーグルは今回の提携に合わせて、無料配送を希望する会員から徴収してきた95ドル(約1万円)の年会費を廃止。一定額以上の商品を注文すれば、誰でも無料配送が受けられるようにするなど攻勢に出る。
米国の小売業は主役交代の歴史を繰り返してきた。カタログ通販のシアーズや百貨店のメーシーズが台頭した後、安売りを武器にウォルマートが世界最大の小売業になったが、今はアマゾンが盟主の座に迫ってきた。
米国ではあらゆる消費関連企業にアマゾンの影響が広がる「アマゾン・エフェクト」と呼ぶ現象が起きている。「共通の敵」を前に手を結んだウォルマートとグーグルが、アマゾンの膨張を食い止められるかに関心が集まる。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ23HPQ_T20C17A8EA2000/