https://jp.reuters.com/article/column-fiscal-reconstruction-ryutaro-kon-idJPKCN1J20WX
2018年6月7日 / 04:27 / 7時間前更新
コラム:財政再建先送り許す「忖度」の構図、決別の方法は=河野龍太郎氏
河野龍太郎 BNPパリバ証券 経済調査本部長
[東京 7日] - 2015年度に策定された財政健全化プランが破綻したのは、日本の財政史において、特筆すべき出来事だ。むろん、財政健全化プランの破綻自体は珍しいことではない。小泉政権の2006年度の歳出・歳入一体改革、橋本政権の1997年度の財政構造改革は、いずれも不況が訪れると破綻した。
確かに当時の不況の震度が大きかったということはあるが、理由はそれだけではない。財政健全化プランが景気拡大期に作成されるため、高い成長の永続が前提とされがちで、不況の到来とともに、税収も落ち込み、破綻に追い込まれるのだ。
しかし、今回の財政健全化プランは、景気拡大局面にある中で破綻したという点で、極めて稀なケースである。足元の景気の実勢よりさらに高めの名目成長の実現を前提にしていたから、不況が訪れる前に、破綻が明らかになった。
では、政府が新たに策定する財政健全化プランは、こうした失敗を避け、2025年度の基礎的財政収支(PB)黒字化の新目標(従来は2020年度)を達成することができるのだろうか。
<まるで「オルタナティブ・ファクト」>
先進各国の財政再建を研究すると明らかな通り、最も典型的な失敗は、高い名目成長を前提にすることだ。税収の高い伸びが期待できるため、それだけで財政健全化が進ちょくする計算となり、歳出削減努力は疎かになる。しかし、景気拡大局面の後には、当然にして景気後退局面が訪れるのであり、景気拡大局面に増えた税収は、景気後退局面には大きく落ち込む。
それゆえ、財政健全化プランを策定する際の前提に、実勢からかけ離れた名目成長率を用いることはご法度だ。実質成長率には、景気拡大局面と景気後退局面の平均であるトレンド成長率(潜在成長率)を用いるべきであり、インフレ期待も簡単には変化しないのだから、インフレ目標が2%であるとしても、これまでのトレンドを用いるべきである。いや、景気拡大のピークが近づく頃に財政健全化プランが策定されがちであることを考えるなら、より慎重な名目成長率見通しを用いることが、不況期においても失敗しない財政健全化プランの第一条件だ。
現在、潜在成長率は1%弱、足元のエネルギーを除く消費者物価指数(CPI)コアや国内総生産(GDP)デフレーターの前年比は0.5%程度だが、1月に発表された内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では、2018年度から2025年度までの名目成長率の前提は、成長実現ケースにおいて、2%台半ばから3%台半ばであり、2015年度のプランから多少引き下げられたものの、バラ色の見通しが据えられている。
慎重であるべきベースラインケースにおいても、1%台後半から2%台半ばの好調な名目成長が想定されている。世界経済の拡大期が10年目に入り、成熟化が進んでいることを考えると、せめてベースラインケースは相当慎重にすべきである。
ちなみに、2015年度に策定した財政健全化プランが瓦解した理由について、内閣府は、3月に要因分析を行っている。そこでは、当初5.6兆円(GDP比1.0%)と見込んでいた2018年度のPB赤字が16.4兆円(GDP比2.9%)まで悪化する理由として、歳出は当初予算に沿って効率化努力が行われたが(3.9兆円、GDP比0.7%)、1)補正予算を編成したほか(マイナス2.5兆円、GDP比マイナス0.4%)、2)世界経済の成長鈍化もあって税収の伸びが緩やかだったこと(マイナス4.3兆円、GDP比マイナス0.8%)、3)さらに消費増税を延期したこと(マイナス4.1兆円、GDP比マイナス0.7%)などを掲げている。
しかし、2015年度以降、景気は大きく悪化したわけではないし、政府が歳出削減に踏み込んだという事実もない。政府が想定するような高い名目成長率とはならなかったため、見込んでいたほど税収も増加しなかった代わりに、賃金上昇やインフレ上昇で膨らむと考えていた歳出もあまり拡大せずに済んだ、と説明するのが正解だろう。「オルタナティブ・ファクト(もう1つの事実)」 のようなフレーズが3年後の中間レビューでも繰り返されるのだろうか。
(リンク先に続きあり)