トランプ米大統領は17日、航空機大手ボーイングへの経営支援を表明した。小型機「737MAX」の停止による業績悪化に新型コロナウイルスの影響が重なり、資金繰りを懸念する見方が出ていた。ボーイングは取引先の部品メーカー向けも合わせて6兆円規模の資金支援を政府と金融機関に要請したことを明らかにした。株価は1カ月で約6割急落しており、市場の不信を払拭できるかは不透明だ。
トランプ大統領は総合的な経済対策を表明した17日の会見で「ボーイングを助けなければならない」と明言した。ボーイングは17日夕に改めて声明を公表し、「米国最大の輸出産業である航空機業界への大統領の支援に感謝する」とコメント。政府の資金援助や民間金融機関への債務保証を含めて、同社と取引先の部品メーカーなどのサプライチェーン(供給網)全体に600億ドル以上の支援を要請したことを明らかにした。
ボーイングは2度の墜落事故を起こした737MAXの運航停止が3月で1年に及ぶ。2月下旬まで300ドルを超えていた株価はコロナ問題の拡大とともに下げ足を速め、足元120ドル台と4年ぶりの低水準にある。
この間に737MAXの大量キャンセルが発生し2月の商用機の純受注がマイナスになったほか、1月に確保したばかりの138億ドル(約1兆5000億円)の融資枠を使い切ったことも明らかになった。新規雇用の凍結も伝わり、資金繰りへの懸念が急速に広まった。
米格付け会社S&Pグローバル・レーティングは16日に同社の信用格付けを「シングルAマイナス」から「トリプルB」に2段階引き下げた。投資適格級は維持したものの、S&Pは「737MAXの長期停止で今後2年のキャッシュフロー(現金収支)が悪化し、コロナ問題で航空機需要が低迷する」と指摘した。
ボーイングは16日夜に「航空業界が困難な時期を乗り越えるため、民間と公的な資金の手当ては重要だ」と声明を発表。政府当局と対策を協議していることを明らかにしたが、かえって市場関係者の資金繰り懸念を強めることになった。17日の米株式市場でボーイング株は一時20%超急落。トランプ氏の支援表明もあったが、株価は前日比マイナスで取引を終えた。
金融業界ではボーイングの信用リスクを問題視する見方はそれほど多くはない。737MAXは運航停止が続くものの、生産能力の7年分の受注残を抱える。カナダの投資銀行カナコード・ジェニュイティのアナリスト、ケン・ハーバート氏は「運航が再開すればすぐにキャッシュフロー(現金収支)が改善に向かう」と資金繰り懸念を否定する。
バンク・オブ・アメリカのロナルド・エプスタイン氏も「未納のままの400機の737MAXが全てキャンセルになったとしても、ボーイングの資金繰りには何ら問題はない」と指摘する。3兆円を超える手元流動性に対し、キャンセルによる損失は最大でも7000億円規模だとはじく。
足元の株価の下落はコロナウイルスの影響による航空会社の経営悪化が関連している。ムニューシン米財務長官は17日、航空会社の業況について「(米同時テロが発生した)9.11の状況より悪い」と説明した。ボーイングは737MAXの運航が再開されれば業績が一気に上向くと見込んでいたが、航空会社の経営が傾けば引き渡しの延期やキャンセルにつながるおそれがある。
米同時テロが発生した01年も、航空会社の業績急落によってボーイングは生産調整を余儀なくされ、約3万人の一時解雇に踏み切った。投資家にはリーマン・ショックを受けて09年に米自動車最大手のゼネラル・モーターズ(GM)が経営破綻し、国有化された記憶も残る。
ボーイングは737MAXの生産停止後も従業員の雇用を維持し、抜本的なリストラには踏み込んでいない。だが、コロナ問題に伴う世界の旅客需要の低迷が長期化すれば、ボーイングが描いた再建シナリオが狂う。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56930970Y0A310C2I00000/