https://www.jiji.com/jc/article?k=2021042300361
2021年04月25日09時00分
日米首脳会談後にホワイトハウスのローズガーデンで共同記者会見する菅義偉首相(左)とバイデン米大統領=2021年4月16日、米ワシントン【AFP時事】
◆笹川平和財団上席研究員・渡部 恒雄◆
バイデン米大統領が初の対面の首脳会談に、日本の菅義偉首相を迎えたことは、やや大げさに聞こえるかもしれないが、国際関係の歴史的な転換点を示したものといえるだろう。
それは、第2次世界大戦、米ソ冷戦、冷戦終結後の超大国・米国の一人勝ち、そしてアフガニスタンとイラクでの「長い戦争」の後に来る「米中のグローバルな競争時代」を反映した会談だったからだ。
◆戦略的関心が変化
日米首脳会談と同時進行で、バイデン政権はアフガニスタン駐留米軍の撤退を進めているが、これは米国の戦略的関心が、米国をターゲットにした国際テロの脅威の策源地である中東・アフガニスタンから、中国に対抗するためのインド・太平洋地域に変化したことを意味している。
米ソ冷戦時の最前線はドイツであり、最も期待する同盟国は英国と北大西洋条約機構(NATO)諸国だった。当時の日本は、ソ連の潜水艦作戦に対抗する自衛隊の活動などが評価され、それにより日本への信頼は高まった。
ただ、少なくとも国際舞台では、日本はあくまでも欧州戦線の側面支援としての存在であり、1972年のニクソン米大統領(当時)の訪中以降、中国は米国の協力国だった。
しかし、バイデン政権がトランプ前政権から対中対抗の姿勢を引き継ぎ、長期的な米中対立の構図が明確となってきた。
日本は、かつての冷戦期の西ドイツのような最前線に位置する国家となり、かつての英独仏のような同盟国としての役割が期待されている。
◆米ソ冷戦との大きな違い
しかも、米中対抗関係は、米国が中国に対して、封じ込め策を取らない(取れない)ことが、米ソ冷戦とは大きく異なる。それは、中国経済との関係が深い日本に、複雑な戦略を要求するものだ。
米国が中国を封じ込めることができない理由は、米国を含む世界が中国と経済的に強く結びついているからで、無理にデカップリング(切り離し)を図ることは、米国や同盟国にとって、経済的にも政治的にもダメージが大きく、効果的ではないからだ。
だからといって米国は、競争相手の中国が、米国を凌駕(りょうが)しかねない最新の通信・軍事技術や経済の優位性を手に入れることを、放置することはできない。
日本にとっても、尖閣諸島沖の中国の行動が示すように、既存のルールを守らずに強権的に動く中国は脅威となる。ましてや、わが国が防衛を依存している同盟国の米国と中国の軍事バランスが、中国の優位に傾くことは、日本の生存や自立に危機をもたらすことになる。
一方、今後、経済成長のピークを迎える中国を、対外的・内部的にソフトランディングさせるため、また日本の経済力を維持するためにも、中国との経済関係を完全に切り離すことは非現実で戦略的ではない。
だとすれば、日本は米国や「クアッド」(日米豪印4カ国)のパートナーとともに、安全保障と経済の適正なバランスを取るため政策協議を行うしかない。
日本政府はこれまで、こうした問題について後手に回ってきた。今回の日米首脳会談は待ったなしのウェイクアップコール(警鐘)となったのである。
(時事通信社「コメントライナー」2021年4月21日号より)
【筆者紹介】
渡部 恒雄(わたなべ・つねお) 東北大学歯学部卒業、米ニュースクール大学で政治学修士課程修了。1995年から10年間、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)でアジア安全保障や日米関係を研究。帰国後、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、17年10月より現職。著書に「二〇二五年米中逆転」「いまのアメリカがわかる本・最新版」など。
2021年04月25日09時00分
![最前線は日本に 日米首脳会談の歴史的重要性が意味すること【コメントライナー】 [ひよこ★]->画像>1枚](https://www.jiji.com/news2/kiji_photos/202104/20210423ds62_p.jpg)
日米首脳会談後にホワイトハウスのローズガーデンで共同記者会見する菅義偉首相(左)とバイデン米大統領=2021年4月16日、米ワシントン【AFP時事】
◆笹川平和財団上席研究員・渡部 恒雄◆
バイデン米大統領が初の対面の首脳会談に、日本の菅義偉首相を迎えたことは、やや大げさに聞こえるかもしれないが、国際関係の歴史的な転換点を示したものといえるだろう。
それは、第2次世界大戦、米ソ冷戦、冷戦終結後の超大国・米国の一人勝ち、そしてアフガニスタンとイラクでの「長い戦争」の後に来る「米中のグローバルな競争時代」を反映した会談だったからだ。
◆戦略的関心が変化
日米首脳会談と同時進行で、バイデン政権はアフガニスタン駐留米軍の撤退を進めているが、これは米国の戦略的関心が、米国をターゲットにした国際テロの脅威の策源地である中東・アフガニスタンから、中国に対抗するためのインド・太平洋地域に変化したことを意味している。
米ソ冷戦時の最前線はドイツであり、最も期待する同盟国は英国と北大西洋条約機構(NATO)諸国だった。当時の日本は、ソ連の潜水艦作戦に対抗する自衛隊の活動などが評価され、それにより日本への信頼は高まった。
ただ、少なくとも国際舞台では、日本はあくまでも欧州戦線の側面支援としての存在であり、1972年のニクソン米大統領(当時)の訪中以降、中国は米国の協力国だった。
しかし、バイデン政権がトランプ前政権から対中対抗の姿勢を引き継ぎ、長期的な米中対立の構図が明確となってきた。
日本は、かつての冷戦期の西ドイツのような最前線に位置する国家となり、かつての英独仏のような同盟国としての役割が期待されている。
◆米ソ冷戦との大きな違い
しかも、米中対抗関係は、米国が中国に対して、封じ込め策を取らない(取れない)ことが、米ソ冷戦とは大きく異なる。それは、中国経済との関係が深い日本に、複雑な戦略を要求するものだ。
米国が中国を封じ込めることができない理由は、米国を含む世界が中国と経済的に強く結びついているからで、無理にデカップリング(切り離し)を図ることは、米国や同盟国にとって、経済的にも政治的にもダメージが大きく、効果的ではないからだ。
だからといって米国は、競争相手の中国が、米国を凌駕(りょうが)しかねない最新の通信・軍事技術や経済の優位性を手に入れることを、放置することはできない。
日本にとっても、尖閣諸島沖の中国の行動が示すように、既存のルールを守らずに強権的に動く中国は脅威となる。ましてや、わが国が防衛を依存している同盟国の米国と中国の軍事バランスが、中国の優位に傾くことは、日本の生存や自立に危機をもたらすことになる。
一方、今後、経済成長のピークを迎える中国を、対外的・内部的にソフトランディングさせるため、また日本の経済力を維持するためにも、中国との経済関係を完全に切り離すことは非現実で戦略的ではない。
だとすれば、日本は米国や「クアッド」(日米豪印4カ国)のパートナーとともに、安全保障と経済の適正なバランスを取るため政策協議を行うしかない。
日本政府はこれまで、こうした問題について後手に回ってきた。今回の日米首脳会談は待ったなしのウェイクアップコール(警鐘)となったのである。
(時事通信社「コメントライナー」2021年4月21日号より)
【筆者紹介】
渡部 恒雄(わたなべ・つねお) 東北大学歯学部卒業、米ニュースクール大学で政治学修士課程修了。1995年から10年間、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)でアジア安全保障や日米関係を研究。帰国後、三井物産戦略研究所主任研究員、東京財団上席研究員を経て、17年10月より現職。著書に「二〇二五年米中逆転」「いまのアメリカがわかる本・最新版」など。