2018年12月16日午後8時――。
札幌市豊平区は火焔と断末魔につつまれた。
その爆発は隣接する居酒屋も吹き飛ばし、死者51人という戦後最大の被害を出したアパマンショップ爆発事件である。
私は事故現場に足を運んだ。
未だ豊平区には人の焼ける匂いが満ち、燃跡には復興の兆しなど微塵もみえない。
しかし、衝撃でバラバラになり燃え尽きた建材の中心に奇妙なものを見つけた――。
「あのマリオ像ですか?」
近隣住民に話を訊くと、件の爆発事故から一夜あけて突然あらわれたのだと言う。
「誰がいつ何の目的で建てたのか分からずじまいでさ。えらく不気味で。……そういえば」
「怒号がきこえてきましたよ。金はいくらでも払うからこの土地を買い取らせろだとか」
その住民によると、事故から遡ること数日前からアパマンショップと任天堂が揉めている姿を何度も見かけていたのだと言う。
ただそれは事故とは無関係だと住民はつづける。
「それから謝罪のしるしなのかなんなのかニンテンドーラボが届けられてるのを見たんで、ああ仲直りしたんだなって」
そしてあの事故が起こった――。
ここからは完全に私の憶測だ。
任天堂は、アパマンショップの土地になんらかの理由で魅力を感じていた。
そこで買取保証を持ちかけたものの断られた任天堂は、謝罪を装ったニンテンドーラボの中に爆弾を仕込ませたのだ。
アパマンショップへの報復と、土地の強奪。
マリオ像は、そのふたつの目的を果たした任天堂の勝利宣言だとしたら――。
今、真実を知る者はいない。
ただその場所には、亡くなった51人への花束とその中心でピースサインをつくるマリオがいるだけだ。
読売新聞