![いきもの語り すみだ水族館のチンアナゴ ゆるく賢く、表情豊かな人気者 [きつねうどん★]->画像>2枚](https://www.sankei.com/resizer/Me0lvtx6Ct5ejFjAzWO7ujUfDlA=/730x0/smart/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/755RJMWUORNX5EGELPWXKZRSFA.jpg)
雄同士でけんかもするチンアナゴ。低姿勢になり口を開け、多い時は4匹で争うことも(すみだ水族館提供)
ゆらゆら細長い体を揺らしながら、砂地から顔を出したり潜ったりするチンアナゴたち。体全体が飛び出ることもあれば、数匹集まってけんかもする。警戒心が強く、常に大きな目で周りを見回しているが、学習能力が高い一面もある。
個性的なチンアナゴたちは、今日もゆるく賢く生きている。
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すみだ水族館(墨田区)の水槽には3種類のチンアナゴの仲間が約200匹暮らしている。犬の狆(ちん)に似ていることから名付けられ、丸顔で、体長は約30センチ。白い体に黒い斑点模様が特徴だ。だいだい色に白いしま模様で体長約40センチのニシキアナゴ、茶色っぽい体に白い斑点がある体長約70センチのホワイトスポテッドガーデンイールは、面長で背ビレが大きい。
亜熱帯の海で群れになって暮らすチンアナゴたちはウナギやアナゴの仲間で、30種類以上が発見されている。砂地に掘った巣穴から顔を出したり潜ったりして過ごす。巣穴の掃除もし、たまに飛び出して「引っ越し」をすることもある。
揺れる動きは、エサのプランクトンを探している動作だ。エサを追っているうちに、隣の個体と絡まってしまうこともしばしば。エサがやってくる水流に合わせて、みんなで同じ方向を向いていることが多い。
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「警戒心が強く、とても目が良い」と、同館飼育チーム長の柿崎智広さん。アナゴなどは夜行性が多いが、チンアナゴたちは昼行性。巣穴から出る際、周囲に敵がいるかなどを判断するために視覚が発達した。水槽の外に人影が見えていても、襲われないと判断することで、常に巣穴から出た状態でいるのだという。
逆に新型コロナウイルス禍の長期閉館中は、人影のない状態が続いたことで警戒して砂に潜るようになってしまった。そのため、休館中には水槽の周りにタブレット端末を置き、多くの人からのビデオ通話で顔を見せる企画を実施。徐々に人間に見られることに慣れ、害がないと判断し、再び巣穴から出るようになったという。
「よく学習し、頭がいい。警戒心はあるが、臆病ではない」(柿崎さん)
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サンゴ礁の砂地の生物として多くの水族館で展示されていたが、以前は「ヘビや海藻かと聞かれたこともあった」というぐらい知名度は低く、主役ではなかった。「はやりだしたのはここ10年くらい」だという。
「群れで生きているから群れで表現したい」と、平成24年の同館開業時にチンアナゴ水槽を設置したところ、ペンギン、クラゲに肩を並べる人気者に。「チンアナゴブーム」の火付け役にもなり、「生き物に対する関心を与えられた」と手応えを感じた。
26年には、世界で初めてチンアナゴとニシキアナゴの産卵の撮影に成功。それぞれの種の産卵行動の違いも確認できた。ただ、いつ体に色や模様が付き、巣穴を掘って群れるかなど生育過程は謎のままだ。柿崎さんらは生態解明に向けた観察も続けていく。
けんかをしたり、距離感を大事にしたりする社会性や、貝にタックルされても気にしないといった個性もさまざまで、「人間との共通項を感じやすい」ことも魅力だ。海の生物は感情が分かり辛いとされるが、よく観察すると、表情や賢い行動が見えてくる。
「『今日も頑張ってるね』とほめながら、癒されてほしい」と柿崎さん。チンアナゴたちの息遣いが、数センチ隔てた水槽越しに伝わってくる。(鈴木美帆)
https://www.sankei.com/article/20220424-RYBXW3NTFRKC5D6DNZNS5LCPYY/