海未(土砂降りの雨音……)
ザー…
ザー…
〜♪
海未(店内に流れる軽快なメロディを耳にしながら……)
海未「……………………」
英玲奈「……………………」
海未「……………………」
英玲奈「……………………」
海未(私たちはひどく気まずい思いをしていました……)
海未(たまの休日、穂乃果とことりと出掛けた先で雨に降られ、立ち寄った喫茶店で偶然にもA-RISEのお三方と鉢合わせ、お茶を共にさせていただきました……)
海未(当然ながらこんな機会は滅多にあるわけでなく、グループ間でライブにかける熱量を高め合い論ずる……。なんとも充実した時間……だったのです……。それまでは……)
海未(話が盛り上がるに連れ……穂乃果はツバサさんと、ことりはあんじゅさんと、それぞれリーダー同士、衣装担当同士、話に華を咲かせています……。私はもちろん、作詞担当同士、英玲奈さんとお話を…………出来ればいいんですが……)
海未(私はそれほど話題も豊富でなく、また口も上手いわけでもなく……一対一での会話の流れが浮かんだ途端、なんとも言い難い沈黙が流れています……)
海未(英玲奈さんも退屈なのでしょうね……先程から申し訳ない気持ちでいっぱいです……)
英玲奈(まいったな……。気まずい……とてつもなく気まずい……)
英玲奈(私は元々口数の多い方ではない……。それに加えて自他共に認める口下手だ……。ツバサやあんじゅはまだしも、慣れない相手と話すとなると、不本意ながら途端に機械のようになる)
英玲奈(話の切り出し方がわからない……。横を見れば弾むように会話を繰り広げている二人組……。何故グループで集まっているのに一対一で話す流れになっているんだ……)
英玲奈(おそらくは園田海未もそう思っているのだろう。先程からたまに視線が合うが、すぐに外されてしまう。怖がられている……わけではない……と信じたい……。ここは年上らしく、私が話の切り口を掴むべきなのだろうが……)
英玲奈(……………………よし)
英玲奈「あー……」
海未「はい?」
英玲奈「最近……どうだ?」
海未「……………………はい?」
英玲奈(父親か私は!!最近どうだ?などと、女子高生の会話ではないだろう!?どんな切り出し方だ!!熟年夫婦でももう少し気の利いたことを話すぞ!!)
海未「最近……ですか。そうですね、まあこれといって……。可もなく不可もなく……でしょうか」
英玲奈「……そうか」
海未「はい」
英玲奈(……………………)
海未(……………………)
英玲奈(会話終了!!!)
英玲奈(いやそれはそうだろう!!とても話の長続きするような切り出しじゃなかったからな!!しっかりしろ統堂英玲奈!!)
海未(も、もしかして……今のはこの沈黙を破ろうとしてくださったのでしょうか……?うわわわわ……そうだとすると、話を広げることもせず早々に話題を打ち切ってしまいましたぁ……!!)
海未(なんたる配慮不足……恥ずべきは口下手よりも、英玲奈さんの思慮を無碍にした自分自身です!!)
海未(英玲奈さんもこの沈黙が耐えかねるようですね……。そ、それならいっそ、私も会話を持ち出すべきです……!そうですよ、会話はキャッチボールです。なにも難しいことはありません!いざ!!)
ザー……!
海未「あ、雨が強くなってきましたね……」
英玲奈「む……そうだな」
海未「雨は好きですが、スクールアイドルとしては厄介の種です」
英玲奈「ん?……ああ、髪がまとまらないからな」
海未(よし、いい調子ですよ!)
海未「いえいえ、これだけ雨が強いと、練習場所にも困ってしまうではありませんか」
英玲奈「……………………ん?」
海未「へ?」
英玲奈「いや……普通に室内で練習すればいいのではないか?」
海未「……………………」
英玲奈「……………………」
海未(ですよね!!いやそれが普通でしょう!!屋上で練習するスクールアイドルなんて、それはそれは珍しい部類ですよ!!ましてやA-RISEは、UTXの完璧な施設で練習している身ではありませんか!!)
海未(キャッチボールどころか……とんだ大暴投です……!!)
海未「……………………」ズーン
英玲奈(な、なにをやっているんだ私は!!せっかく園田海未が話を切り出してくれたのに!!なにを一蹴しているんだ!!見ろ、あからさまに落ち込んでしまっているぞ!!)
英玲奈(もっとこう……。そうだ……今度、A-RISEとμ'sとで合同練習でもどうだろうか?くらいの気の利いたセリフをサラッと言ってみせろ私!!)
英玲奈(……おぉ!いいじゃないか合同練習!これは話が広がる予感がする!いや間違いない!!行け統堂英玲奈!!お前ならやれる!!A-RISEとμ'sの架け橋となってみせろ!!さあっ!!)
英玲奈「そうだゃ――――」ガリッ
英玲奈(ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!舌噛んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!)
海未「え、英玲奈さん!?どうしたんですか!?」
英玲奈「なっ、ナンデモナイ……」
海未「何故急にカタコトに!?」
英玲奈(くっ……焦りすぎた……!思いっきり舌を噛んでしまった……!)スッ
ピンポーン……
海未(英玲奈さんもこの状況を打破しようとしてくれているのが伝わります……!作詞担当同士、話題は有り余るほどあるはずです!幾百もの詞を綴ってきたではありませんか!語彙が尽きることなどあってはなりません!!)
オマタセシマシター
海未(……はっ、そうですよ!!作詞のことについてならいくらでも話題が膨らむのでは!?英玲奈さんは、どうやって詞を考えているのですか?よければ参考までに教えていただけませんか?これです!!これでいきましょう!!)
海未「英玲奈さんは――――」
英玲奈「すまない、ブレンドをもう一杯」
カシコマリマシター
海未「……………………」
英玲奈「ん、どうした?」
海未「……………………いえ」
海未(どんなタイミングで注文しているのですかこの人は!!?語彙もへったくれもないではないですか!!今のは完全に英玲奈さんに非があります!間違いありません!!)
英玲奈「?」
海未(いや……ここでめげてはいけません!!何事も根気です!!諦めちゃダメなんです!!その日は絶対来ます!!)
海未「英玲奈さんは――――」
オマタセイタシマシター
英玲奈「ああ、ありがとう」
海未「……………………」
英玲奈「ん、なにか言ったか?」
海未(神さまに嫌われているのですか私は!?なにか悪いことしましたっけ!!?会話が続かないどころか切り出すことすら阻まれるとは……!!迅速なドリンクの提供痛み入ります店員さん!!)ギンッ
店員「!?」ビクッ
ゴ,ゴユックリドウゾー……
海未(くっ……会話とはこんなに難しいものでしたか!?私たちは日々どうやってコミュニケーションをとっていましたか!?誰か私に教えて下さい!!!)
英玲奈「……………………」コクン
英玲奈(……………………舌に染みてとてつもなく痛い)
コトン……
英玲奈(さて、どうしたものか……。何を話題に……何か……)
ユメノトービーラー♪
英玲奈(むっ、これは!μ'sのPVではないか!喫茶店のBGMで流れるとは……これを話題にすれば盛り上がること間違いないぞ!!いい仕事だ店長!)
セイシュンノプロローオーグー♪
英玲奈(フフフ、園田海未と和気あいあいと話に興じる未来が目に浮かぶ)
英玲奈「こ、この曲はいいな。絶妙なリズムとダンスの一体感が心地いい。心が弾む」
海未「この曲……?」
パーリショッキンパーリーハージメルジュンビハドウ♪
英玲奈「……………………」
海未「……………………」
英玲奈(店長を呼べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!どんなタイミングで曲が変わっているんだ!!!μ'sの曲はどうした!!!今のではただの度を越えた自画自賛だぞ!!!園田海未のこんなキョトンとした顔始めてみたぞ!!!あぁぁぁ……顔が発火するほど恥ずかしいぃ!!!///)
海未(な、何故急に自分たちの曲を褒めたのでしょう……。ま、まさか……まだまだμ'sはA-RISEには及ばないという暗喩!!親しくなったとはいえ……お互いが高みを争うライバル同士、常に頂点を見据え引き締めねばならないということですね!!さすが英玲奈さんです!!)
海未「英玲奈さん!!」
英玲奈「!!?」ビクッ
海未「ありがとうございます!」キラキラ
英玲奈「あ、ああ……。かまわない……」
英玲奈(いやなにがだ!!?)
海未(しかし、それでも会話が続かない現状は変わりませんね……)
英玲奈(何故女子高生同士でこうも間がもたない……。もしかして、園田海未は私のことが嫌いか!?……いやいや、なにも嫌われるようなことをした覚えはないだろ!自分を信じろ統堂英玲奈!)
海未(穂乃果とことりは、いったいどんな話をしているのでしょう)チラッ
英玲奈(くっ!不甲斐ないが背に腹は変えられない!こうなったら、不本意だがツバサとあんじゅを巻き込んで、再び六人で会話をする流れを作ってやる!!ツバサ!あんじゅ!)チラッ
穂乃果「へぇ、フランスにはフランスパンの自動販売機があるんですか!!」
ツバサ「フフッ、いつか一緒に見に行きましょう。新婚旅行でね♡」ウィンク-☆
穂乃果「……はい///」キュン……
あんじゅ「ことりさん、これをあげるわ♡」
ことり「ハートの形のフェルトマスコット……ですか?」
あんじゅ「運命の赤い糸で編んだの♪もちろん、私とことりさんの……♡」
ことり「あ、あんじゅ……さん///」トゥンク
うみえれ(二人ともぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!?)
海未(いったいなにが!?この数十分の間になにがあったんですか!?)
英玲奈(我々が気まずい思いをしている間に、なにをやっているんだこいつらは!!)
海未(英玲奈さん!!ちょっとどうにかしてもらってもいいですか!!?)
英玲奈(いやそんな目で見られても困るんだが!!?たしかに誘ったのはこっち側っぽいが!!)
海未(穂乃果はツバサさんと……ことりはあんじゅさんと……そういう関係に……)
海未(あれ、そうなると私は英玲奈さんと……?)
海未「……………………」チラッ
英玲奈「?」
英玲奈『海未。君のためだけに綴った恋の詩がある。聞いてくれるか』
海未『は、はい……///』
英玲奈『甘く蕩けるフレーズを囁いてやろう。情熱家に……大胆に……』
海未『優しく……お願いします///』
海未(!!!///)ボフン
英玲奈(よし、いったんこの空気を断ち切ろう!いったんこの流れをぶち壊そう!でないと限界だ!気まずさに気まずさを重ねられて……もう手の施しようがない!園田海未もそれを望んでいるはず!)
英玲奈「な、なんだかのどが渇くな今日は。ブレンドをもう一杯注文しよう。なにか飲むか?」
海未「破廉恥です!!!///」
英玲奈「コーヒーのおかわりがか!!?」
穂乃果「ねえねえみんな」
うみえれ「!?」
穂乃果「私とツバサさん、今からホテ……映画観に行くんだけど、みんなはどうする?」
ことり「へっ?ことりはあんじゅさんとホテ……手芸用品見に行こうかなってお話してて」
ツバサ「あら?そうなの?」
あんじゅ「みんなバラバラになっちゃうわね」
穂乃果「海未ちゃんと英玲奈さんはどうする?」
海未「そ、そうですね……」
英玲奈「我々は……」
うみえれ「……………………」
うみえれ「……………………」チラッ
英玲奈「図書館に……」
海未「誰にでも出来る会話の本を探しに行きます……」