『週刊新潮』 2005年4月28日号
「朝日」が立派に育てた中国「反日暴徒」
「靖国参拝」も「教科書問題」も、火付け役は朝日新聞だった
おそらく、中国の反日デモを目の当たりにした朝日新聞の胸中には複雑な思いが去来した
に違いない。日本大使館に石を投げる人民の主張は、朝日が口を酸っぱくして繰り返した
「歴史認識」とすっかり重なっていたからだ。ならば、胸を張るがいい。中国共産党と力
を合わせて種を蒔き、水をやった努力が今、「反日暴徒」の実を結んだのである。
ジャーナリストの水間政憲氏が解説する。「そもそも、日中間で政治問題化した歴史認識
問題、つまり靖国参拝や教科書などを記事で大きく取り上げて、中国で火がつくように
仕組んだのは朝日新聞でした。
朝日が大きく報道し、中国政府がそれに反応して大騒ぎする。この構図の中で、中国は、
国民に根強い反日感情を植え付けてきたのです。つまりここ3週間に起きたデモは、朝日
が繰り返し、日本は誤った歴史認識を持っていると報じた結果、若者達に高じた反日感情
がベースで、朝日のとった親中路線を進めた結果の出来事なのです。」
朝日新聞が編み出したのが、中国共産党と″一心同体となった「御注進ジャーナリズム」
と呼ばれる手法だった。OBの稲垣氏が説明する。「御注進ジャーナリズムとは、中国が
反発すると予想できることを、朝日が大々的に報じて、中国政府に反発という反応をさせ、
また、その反応を大々的に報じて増幅させる手法です。私は朝日は親中というよりも、
中国に媚びている″媚中だと思っていますが、この媚中メディアの書くことは外交
カードになるということを中国に知らせてしまった罪は大きかったのです。」
紙メディアの朝日新聞で、チベット侵略万歳記事
「成立40周年を9月に迎えた中国チベット自治区は、中国政府の支援
を受け目覚しい近代化を遂げている。山間部でも電化生活が当たり前に。
区都ラサは携帯電話やパソコンが普及し、中国内地と初めて結ぶ鉄道の
開業を控えて建設ラッシュに沸く。「近代化」と「中国化」の波が押し寄せるなか、
チベット人の精神的支柱ともいえるチベット仏教も大きな曲がり角を迎えている」
「当局発表ではラサの人口は約40万人。年に12万人の韓国客が訪れ、
うち92%が北京や上海などからの中国人だ。四川省など内陸部の農民ら
の出稼ぎ者も多く、屋台の野菜売りや中華料理店の経営、タクシー運転手
など10万人以上が働いているとされる。漢族の流入は増える一方だ」
「中国のチベット仏教界は出家人数の定員制に加え高僧の多くが亡命、
ゲシェーは「昼の星を見つけるようなもの」(仏教関係者)と言われるほど不足
が深刻だ。教理水準は亡命政府側との格差が開く一方で、仏教会は試験
再開を強く求めてきた。「経済発展とともに庶民の信仰心は強まるが、
自分の幸福だけを祈るものが増えた。心が貧しくなっている」と、ジョカン寺管理
委員会のニマ・ツレン副主任(38)は嘆いた。「試験の中段期間が長く、取り戻すには
時間がかかる。チベット仏教の統一が必要だ。ダライ・ラマ14世に早く帰ってきて欲しい」と話した」
■3.「歴史の証人」は何を報道したか■
「歴史の証人」として北京に一人残った秋岡特派員はどのような報道をしたか。
46年、中国共産党副主席林彪は、クーデターを計画し、毛沢東主席が上海から北京に帰る列車を爆破しようとした。
しかしこれが事前に露見し、9月12日、北戴空港からソ連に国外脱出を図ったが、モンゴルで搭乗機が墜落し、全員死亡した。中国当局はこれを
ひた隠しにした。[2,p179]
秋岡特派員は、11月中旬に、ある筋から事件の実際を教えられたが、「絶対に口外しない」という約束をさせられたため、いっさい記事を書こうともせず、本社にすらこの情報を送らなかった。[1,p69]
しかし、10月1日の国慶節パレードが当然中止され、人民日報にも、林彪の名が現れなくなったので、何か重大な政変があったのではないか、との観測が世界中にひろまった。
産経は11月2日付け外報トップで、「ナゾ深める”林彪氏失脚”の原因」という記事
を掲載した。[2,p180]
秋岡特派員は、パレードが中止になったのは、「新しい祝賀形式に変わったのではないか」(46.9.27)と述べ、
林彪失脚のうわさにも「しかし、これだけの事実をもって党首脳の序列に変化があったのではないか、と断定するだけの根拠は薄い」(46.12.4)と報じた。
さらに翌年2月10日には、一面トップで「林氏 失脚後も健在」とまで報道している。
中国政府が林彪事件の真相を公にしたのは、7月末に訪中したフランスの外相らに毛沢東が直接語ったのが最初である。
秋岡特派員はようやく8月1日付け朝刊で、「これが林彪事件の真相」と発表した。
見事な中国政府のスポークスマンぶりであった。
朝日のみ北京特派員を残した成果は、産経より遅れること8ヶ月も林彪事件の真相が意図的に読者に伏せられたということであった。
■4.「中国の友人」による社内検閲■
帰国した秋岡記者は、広岡社長の威光と、中国とのコネをバックに、さらに本格的な「活躍」を続ける。
昭和48年4月に、「文革(文化大革命)で失脚したトウ小平が、副総理として復活した」というニュースが世界を駆けめぐった。
週刊朝日編集部では、これを文革の重大な転回点ではないか、と考え、中国問題の専門家中嶋嶺雄氏らの対談記事を4月28日号に掲載した。
中嶋氏は早い段階から、文革を中国政府内の権力闘争であると喝破していた人物である。
帰国早々にこの記事を見た見た秋岡氏は、編集部にこう言った。
この記事の内容が正しいかどうかは問わない。ただこのなかにある中嶋・竹内対談の『トウ小平復権は脱文章の象徴か』とのタイトルを見れば、中国側は激怒してわが社の特派員を追放する強硬措置に出る恐れがある。
この前、朝日ジャーナルが問題になったときも、北京の新聞司の担当者は件の号を私の目の前で机に叩きつけた。
中国は文革報道に極めて神経を尖らせているから、今度の週刊朝日の記事にも黙ってはいないだろう。何とか善後処置を取る必要がある。
編集部がなかなか折れないと知るや、秋岡氏は編集長を別の場所に呼びだして、
「今のような事をやっていると、編集長の地位も危なくなるぞ」と露骨に脅かした。[1,p42]
中嶋氏はその鋭い文革分析で、中国側に睨まれており、氏を登場させた事自体が問題にされたようだ。事件は結局、秋岡氏を通じて、中国代表部に遺憾の意を表明する事で決着した模様である。
当時は、中国代表部の意向を代弁していると自称する、いわゆる「秋岡感触」という不文律が罷り通っていて、中国代表部の意向が直接秋岡氏に伝わり、朝日新聞社がそれに従うという風潮が生まれていたことは間違いない。[1,p45]
中国代表部は、こうして日本国内で数百万人が読む新聞に内部から検閲を加えていたわけである。その恐るべき政略には脱帽せざるをえない。
こうして、後に胡耀邦党総書記が、「死者2千万」と総括した文革の実態は我が国にはほとんど知らされなく、ムード的な親中国意識が我が国を支配してきたのである。[3,p220]
突出した対中政府援助もこの成果の一つであろう。[4]
■5.国外追放への対応方法■
外国の特派員を、国外追放で脅すというのはソ連もよく使った手である。昭和42年から、5年間、朝日新聞のモスクワ特派員だった木村明生氏は、冷静で客観的な報道ぶりから、ついには在日ソ連大使館のブロンニコフ一等書記官(実はKGB中佐)が、しばしば
朝日新聞を訪れ、「木村の送ってくる記事は反ソ的だ。朝日新聞が自ら更迭しないなら国外追放の処置をとる」と恫喝した。(略)
帰国した木村氏は閑職に追いやられ、以後10年間、朝日新聞紙上には1行の記事も書かせてもらえなかったという。[1,p213]
朝日とは対照的な態度を示したのが、ロンドン・タイムズであった。(略)
朝日の態度は中国の場合と同じだが、さすがに権謀術数、数千年の歴史を持つ中国のやり方は、ソ連とは格が違う。
ソ連は「反ソ」 記事を書く記者を追放しただけだが、中国は「親中」記事を書き、社内検閲までしてくれる「友人」を確保しているのである。
■6.女性工作員疑惑■
最近、橋本首相が中国女性工作員と交際があったという疑いが表面化し、国会でも西村慎吾議員が問いただした。
月刊誌「諸君」は、相手の女性は日本から無償の援助を引き出す任務を与えられた中国の厚生官僚であり、実際に彼女の工作によって中国に病院を建設する目的で26億円のODAが拠出された、との疑惑を報道している。 [5]
クリントン大統領の女性スキャンダルには大きな紙面をさく日本の新聞各紙は、産経を除いて、この件については、不思議な沈黙を続けたままである。日本政府からマスコミ各社まで、「中国の友人」があちこちで暗躍しているのだろうか。
[参考]
1. 朝日新聞血風録、稲垣武、文春文庫、平成8年
朝日新聞の中で、身を持って偏向報道と戦った著者の感動的な生
き様。
2. 朝日新聞の「戦後」責任、片岡正巳、展転社、平成10年
3. 「悪魔祓い」の戦後史、稲垣武、文春文庫、平成9年
4. JOG(4) 中国の軍事力増強に貢献する日本の経済援助
5. 諸君、平成10年6月号、7月号
小泉政権で内閣改造が行われた時の新大臣の記者会見で、朝日の記者が
全大臣に「靖国参拝はするか?」と質問していたのは異様だった。
朝日にとっては、各大臣に政策を問うより、中国にご注進する方が優先
されるんだなと感じた。
そのなかで安替氏は次のように述べている。
―――「暴力デモ」を批判する人でも、大部分は『釣魚島』は中国のものだ、と考えている。まして「領土問題はない」という日本政府の立場にはあきれている。
多くの知識人は「日本人は東京都知事が買うよりは日本政府が買うほうがコントロールできるから国有化した、と考えている」ことを知った上で、だ。
―――「議論はない」と言い続ける日本政府の立場は、中国政府ではなくても普通の中国人でも理解できない。
政府が「領土問題はない」と強調するのは、日本の尖閣諸島の領有権に何の瑕疵もなく、これを巡って何も争う余地はない事実を明らかにするためだが、
その姿勢を中国側は何としてでも崩し、事実上中国の主張にも理があることを日本側に認めさせたい。
中国では「中国政府」「普通の中国人」だけでなく、「暴力デモを批判する人」や「(国有化に理解を示す)多くの知識人」ですら、日本政府の頑なな姿勢が日中間の対話を妨げ、問題の平和的解決の障害だと見ている
と語った安替氏だが、これは明らかにそうした中国側の不条理な要求を陳述したものだろう。
そしてこうしたものを無批判に掲載したこの記事は、中国の代弁と断じざるを得ないのである。
もう一つの代弁記事は、オピニオン欄に載った王緝思氏とのインタビュー記事である。
「胡錦濤政権の外交政策にも大きな影響力を持つ」とされる王緝思氏が、尖閣問題で顕著に表れた中国の外交面での強硬姿勢の背景には、成長を遂げる中国に対する米国の不当な待遇への不信感があると論じる内容だ。
そこにおいて王緝思氏はこう述べた。
――米国に対して多くの中国人が不満に思うのは「どうしてダライ・ラマを招くのか」「どうして中国国内の人権活動家を支持するのか」「台湾に武器を売るな」「南シナ海の領有権を尊重しろ」などなどだ。
これでは完全に侵略主義に発するプロパガンダだが、こうしたものも朝日は何の批判、反論も加えることなく、一つの「オピニオン」として大きく掲載するのである。
こんなものを読まされても、さすがに侵略主義を受け入れる読者はいないだろう。
しかし中国との緊張関係を解消するためなら、日本を含む国際社会は、チベット、人権、台湾、南支那海等の問題で中国に譲歩しなければならないとの印象を抱かされた読者は少なくないはずである。
なお王緝思氏もまた、「中日両国は当面の障害を乗り越え、相互の長期的利益に資する他の優先課題に焦点を絞るべきなのだ」などとして、尖閣問題の「棚上げ」を主張している。
そしてそれを受け、インタビューを行った編集委員は記事の終わりで、「日中関係に対する冷静さは一貫していた」とのコメントを付け加えるのである。
中共のプロパガンダの具として「騙人民」を行うのが人民日報なら、「騙日本人」(日本人を騙す)の任に当たるのが朝日新聞である。
朝日が「親中」であるとの認識は広がりつつあるものの、その実態はそんな甘いものではない。
現実としてすでに中国の傀儡に陥り、ここまで日本社会全体をあの国のコントロール下へと引きずり込もうとしているのである。
中国メディアからしばしば「タカ派」「右翼」「反中派」などとレッテルを貼られてきたのが安倍晋三氏だ。どれもが「中国の台頭、拡張にノーを言う邪魔者」といった意味である。
朝日が異常といえるほど同氏への非難キャンペーンに力をこめる理由も、これで明らかだろう。
中国が対日外交で必死になればなるほど、その代弁のためになりふり構わなくなるのが、従来からの朝日の一大特徴である。