―― 生きていることは矛盾を抱えることである、と。
檜垣 そうです。『豚のPちゃんと32人の小学生』っていう映画にもなった本を教材にして、授業であつかうこととかよくあるんです。
それなりに有名な話なんでご存じかも知れないんですけど、大阪の小学校で命の授業として豚を飼って食べようと実践したクラスの話ですね。
その中である女の子が「Pちゃんを殺さないで」と泣きじゃくるんですけど、きっと晩ご飯にカツカレーが出たら喜んで食べるとおもうんです。
でもその女 の子は何も悪くない。そこにあるのは、人間という存在が持つ矛盾そのものなんです。
■工学部の学生から「先生の講義ほど意味のない講義は初めてでした」って
―― Pちゃんは殺せないけど、カツカレーの豚は平気というのはどこに違いがあるんでしょうね。
檜垣 一つは顔があるかないか、もう一つは名前があるかないか、でしょうね。
顔とか名前があることで、ある存在が「かけがえのない個体」として出現しちゃうんですよ。
顔の問題についてはレヴィナスとかが論考していますし、名前についてはクリプキの論が有名です。
―― こうした根源的な問いかけを突き詰めていくのが哲学なんだと思いますが、学生に伝わらないなあ、話が通じてないなあと思うときはありませんか?
檜垣 ありますよ(笑)。自分はリーディング大学院という、研究科に関係ない、文理統合のような組織の授業ももっているんですけど、工学部のやつが「先生の講義ほど意味のない講義は初めてでした」って言うんですよ。
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