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「いつもどうやっているか覚えている?」
収容者の約2割が60歳以上の鳥取刑務所(鳥取市)。廊下の手すりを伝いながらリハビリ室に現れた男性受刑者(74)の耳元で、男性刑務官が大きな声で語りかける。受刑者はしばらくの沈黙の後、こうつぶやいた。「忘れた」
この受刑者は覚醒剤取締法違反で実刑が確定し、約2年半前に入所。2年前から物忘れなどの症状が表れ、他の受刑者と一緒に刑務作業ができなくなった。
今では手すりなどにつかまって歩くのがやっとの状態だ。
単独室にある男性受刑者の布団には防水カバーが掛けられていた。便器への移動が間に合わないこともあるためという。
同刑務所の刑務官は、「週末などは室内にこもりがちになるせいか、服役中に認知症の症状が悪化する受刑者も多い」と話す。
鳥取刑務所では、高齢受刑者らを対象に、平日のほぼ毎日、個別に約30分間のリハビリが行われている。寝たきりになることなどを防ぐのが狙いだ。
「何本に見えますか」。女性の介護福祉士(26)が頭上に指2本を掲げた。
「3本」。
約2年半前に入所し、物忘れなどの症状が進む男性受刑者(74)がこう答えると、介護福祉士は「2本ですよ」と優しく声をかけた。
男性受刑者は指示に従って体を伸ばしたりするが、時折、「あっ」と痛そうな声を漏らしていた。
受刑者の高齢化を受け、国は今年度から、約30人の介護スタッフを全国の刑務所に配置。鳥取刑務所も介護福祉士1人を採用し、平日に30〜40分、受刑者に運動などの指導を行っている。
だが、刑務官の負担は重い。所内には階段を使わないと行けない面接室などもあり、刑務官が2人がかりで背負って運ぶこともある。
食事をのどにつまらせる恐れがあるため、食べ物を細かく刻み、食事中を通して見守る必要がある受刑者もいる。
同刑務所の刑務官はこうため息をつく。「『介護棟』のようなものを作らないと対応が難しい」
浜井浩一・龍谷大教授(刑事政策)は、「ヨーロッパでは重大事件を除いて高齢者を刑務所に入れない国が多い。これだけ認知症の受刑者が多いのは日本くらいであり、認知症が進行した場合は刑の執行を停止し、福祉施設に入れるべきだ」と指摘する。
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20180115-OYTET50021/