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https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48817210R20C19A8EE9000/
銀行、休眠口座に手数料案浮上 マイナス金利を転嫁
個人の預金口座にマイナス金利を課す動きが欧州で広がり、邦銀でも経営の検討課題として浮上してきた。中央銀行のマイナス金利政策が長期化し、収益の先細りが懸念される事態は日欧で変わらないためだ。
マネーロンダリング(資金洗浄)対策などで口座管理に要する負担も増す。入出金が長く止まった休眠口座に一定の手数料を課す案が有力との見方もある。
欧州では20日にデンマークのユスケ銀行が預金残高750万クローネ(約1億1900万円)を超える口座を対象に
12月から年0.6%の手数料を徴収すると発表した。スイスのUBSも11月から、残高が200万スイスフラン(約2億2000万円)超の口座に手数料を課す方針を明らかにしている。
邦銀もマイナス金利の転嫁に無関心でいられない。日銀は2016年2月にマイナス金利政策を始め、民間金融機関が日銀に開く当座預金の一部から金利を取り始めた。3年半がたち、超低金利の常態化で預金と貸出金の利ざやが縮小し、収益環境は悪化している。
日銀は現在、預金残高を3種類に分け、それぞれプラス0.1%、ゼロ%、マイナス0.1%の金利を適用している。
特に影響が出ているのが地方銀行だ。メガバンクに比べて大口の貸出先が少ない地域金融機関はマイナス金利が適用される当座預金が増えやすく、影響が大きい。日銀統計によると、地銀でマイナス金利が適用される預金残高は月平均で1千億円を超え、6月には3700億円弱まで膨らむ局面があった。
地銀でもいまのところ個人や法人の預金口座に口座維持手数料などの名目で、直接マイナス金利を転嫁するところはないが、周縁部には動きがでてきている。
千葉銀行と八十二銀行(長野県)は昨秋から今春にかけて、ATMを使った振込手数料を増額した。北洋銀行(北海道)も窓口での両替手数料を9月に引き上げる予定で、各種の手数料を上げる動きは広がりそうだ。
メガバンクなどの都市銀行は現在、マイナス金利が適用される日銀の当座預金残高はゼロとされる。取引先の企業に大口預金を断り、資金の流入を抑えているためとみられる。
ただマイナス金利がさらに長引けば、「適正な対価を受け取るべく手数料の見直しを進める必要がある」(ある大手行の幹部)。口座維持の名目で手数料を取ることは、預金者への転嫁として有力な選択肢にはなり得るが、欧州のように大口預金者に一定の手数料を課せば、預金者から反発を受けかねない。
少額の預金に手数料を課した大手銀行は過去にあったが、大口預金者は「収益の源泉」としてこれまで優遇されてきた。ある地方銀行の幹部は「預金者には不利益変更になるので訴訟に発展する可能性がある」との懸念を示す。
そこで銀行業界が現実的な選択肢として注目するのは、入出金が長期にわたって止まり、休眠状態にある預金口座から口座管理手数料として毎年一定額を取る案だ。
大手銀行ではりそな銀行が始めている。入出金が2年以上ない普通預金口座の預金者に文書で通知し、残高が1万円未満だと年1200円の手数料を取る。残高が手数料の水準を下回ると自動的に解約する仕組みだ。
これまで日本の預金者は銀行の口座を簡単に開設できるうえ、その維持にかかる負担も求められてこなかった。日銀の黒田東彦総裁は16年にマイナス金利政策の導入を表明した直後、
衆院予算委員会で「(金融機関の)個人預金にマイナス金利がつくということはないだろう」と答弁した。だが、長引く低金利による銀行収益の悪化は、日本の商慣習を突き崩す引き金になるかもしれない。