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平田オリザ「芸術文化は社会インフラ」いま途切れると
「ダメージは壊滅的です」「(小さな劇団は今後)2、3年公演できません」。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた政府の自粛要請は、舞台芸術界に多大な打撃を与えていると、劇作家・演出家の平田オリザさんは訴える。
専門家会議は19日ごろにこれまでの自粛要請などの効果を判断、公表するとしているが
公演中止が長引けば、日本の文化はどうなってしまうのか。「芸術文化は社会インフラ」と唱え、国や地方自治体の文化政策にかかわってきた平田さんは、こんなときだからこそ「公共性」に目を向けてほしいと訴える。
せめて具体的な基準を
日が経つにつれ、中小劇場での劇団公演にも自粛が広がっています。
「ダメージは壊滅的です。公演中止で見込んでいたチケット収入がなくなれば、劇団員自らがかぶるしかない。スタッフにお金を払うこともできないので
小さな音響や照明の会社は連鎖的につぶれてしまう。法人格のない劇団は緊急融資の対象にもなりませんから、アルバイトをして借金を返すため、2、3年は公演できません」
「芸術家としてのステップアップとなるはずだった公演が、中止となった劇団もあるでしょう。若い才能が演劇をやめてしまったり、伸びなかったりすれば、演劇界全体でなく、社会全体の損失になると思います」
無観客の公演や演奏を行い、オンライン配信する動きもあります。
「メトロポリタン歌劇場のオペラ公演の映像など、非常に高い技術で撮影された映像を見た場合、必ず本物を見たくなるというアンケート結果もあり、そういう点では良いと思います。ただ、『本体』があってこそ。チケット収入も得られない、無観客を続けることは現実的ではありません」
芸術団体やアーティストを支えるために、できることは。
「短期的には、経済的に困っている団体や個人への金銭的な支援、表現の場を失った若手に対する場の提供などだと思います。中長期的には、これまで置いてきぼりになっていた部分のあるフリーランスの方や小さな劇団を
どうやって継続的に支援していくかという課題もあります。一定時間以上働いているフリーのアーティストに失業保険を支給する仏の「アンテルミタン」のような制度にするのか
芸術団体の活動を薄く広く支援する、英のアーツカウンシルのような制度にするのか。日本にあった方法を真剣に考えていく必要があります」
「現在の日本の助成金の制度は実績重視です。その結果、書類の書くのがうまい中堅以上の劇団が採用されやすいのが現状です。劇場の権限を強め、若手にたくさん上演の機会を与えた劇場が
彼らの成長の度合い、例えば戯曲賞の受賞などを、実績として評価されるようなことになれば、もうちょっと健全なシステムになると思います。
現在、国立大学は若手研究者の何人が科学研究費を取得したか、といった指標で評価されているわけですから、荒唐無稽な話ではありません。少しずつでも制度を変えていくには、我慢するだけでなく、声を上げなければいけません」
そもそも、2月26日の安倍晋三首相による中止や延期・規模縮小の要請は「多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベントなど」が対象でした。
「観客の人数など、せめて具体的な基準を示してくれれば良かった。『自粛』というのは非常にあいまいです。広く住民の利用に供することを設置目的の一つとする公立文化施設にとって
開館しているのにもかかわらず、利用者に自粛を求めるのは難しい。結局、主催公演の中止だけでなく、文化施設自体を臨時休館するという苦渋の決断を下す自治体が、東京都内の杉並区などをはじめ、全国で出てきているのが現状です。
小さな自治体ほどデータがありませんから、国に言われれば従わざるを得ない。だからこそ、国はきめ細かな指針を打ち出したほうが良いのです」
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新型コロナウイルスの影響で、公演中止中の宝塚大劇場。貼り紙で中止を知らせていた=2020年3月5日午前、兵庫県宝塚市
「今は、首相やその側近たちが言ったことを、後追いする形で、専門家たちの発言が縛られてしまっている状況なのではと思います。日本の劇場には、非常に厳しい換気基準が定められています。
19日ごろにある政府の専門家会議の示す効果の分析を踏まえ、分かりやすいガイドラインが出ることを期待します」
文化庁長官、メッセージを
公演などの再開を目指す上で必要なことは。
「頭に置くべきは、ゼロリスクはないこと。そして、リスクはトレードオフだということでしょう。つまり、全員が家に閉じこもれば感染症は防げるかもしれないが、それ以外の健康不安は広がるというように、です。