
最敬礼で迎えられた主役は、横浜商科大学(横浜市緑区)野球部監督(当時)の佐々木正雄さん(70)。
指揮官退任をねぎらうため、親交のある約1200人が集った。
壇上の日本学生野球協会の関係者があいさつし、会場の笑いを誘う。
「昨今、スポーツ界でもパワハラが問題視されています。佐々木監督のことは正直、心配でした」
広く知れ渡るその指導法。佐々木さんは非難を覚悟した上で、胸の内を明かした。
「自分の糧になった経験をいち早く伝えるには『鉄拳』が必要。早いうちに打つんだよ、鉄は」
自身の高校時代、野球部で受けた暴力が「鉄拳」を辞さない価値観を根付かせた。
グラウンドに出ると、訳も分からぬまま先輩たちに怒鳴られ、殴られた。
後に地面に置いたボールやバットをまたいだことが理由だと知った。
「俺たちの時代は殴られても、誰も理由を教えてはくれなかった。
自分で考え、答えを見つけて学ぶ。自分を作り上げる第一歩だった」と振り返る。
「『体罰』は能力のない指導者が感情に任せてやるもの」と断じる一方、
指導者として自身が振るってきた「鉄拳」は、それとは一線を画し、
「自らも体験し、冷静さを保てる者だけが行う資格を持つ」が持論。
使うのは平手に限った。
それはしかし、どれほど言葉を重ねても現在は「体罰」と捉えられる行為だ。
佐々木さんにとっての「鉄拳」は物事の善しあしを伝えるため、選手を思っての行為だった。
ただ、本音を言えば葛藤があった。
「手を上げた日は正直、なかなか寝付けない。彼らがどんな思いでいるかと気になった」
もし同じ思いを抱く指導者がいれば、私はとるべき行動は一つだと伝えたい。
振り上げた拳は誰にも向けることなく静かに下ろすべきだ、と。
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