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キャッシュレス、コロナでも普及遅れる?3つの壁の存在
スマートフォンをかざすだけで買い物ができるキャッシュレス決済。便利なうえに、現金に手を触れないため新型コロナウイルスの感染予防にもなると注目されている。
アナログ派の記者(33)は、今年4月にIT企業の担当になり、遅ればせながらやっとスマホ決済を使い始めた。確かに便利だが、キャッシュレスの取材を進めると、使っている人はまだそれほど多くない。
経済産業省によると、2019年の消費全体に占めるキャッシュレス決済比率は26.8%。これはクレジットカードも含む数字で、スマホ決済はまだこれからだ。一方海外はクレカが早くから浸透し、スマホ決済も広がっているようだ。キャッシュレス決済の比率が9割以上の国もあるという。どうして日本では浸透が遅れているのか。各国のキャッシュレス事情に詳しい「NCBLab.」(東京)代表の佐藤元則さん(68)を訪ねた。
さとう・もとのり1952年生まれ。カードや決済企業の専門コンサル会社を立ち上げた後、97年に日本カードビジネス研究会(現NCBLab.)の代表に就任。キャッシュレスに関する講師などとしても活動。現在は新型コロナの影響で、京都市内の自宅でテレワーク中。
訪日客「現金しか使えないのは不便」
20年以上前からキャッシュレス社会の必要性を唱えてきた佐藤さん。やっぱり、普段の生活はほとんどキャッシュレスですか?
「9割以上キャッシュレスですね。ただ使えないお店もあるので、そういう時のために現金はもっています」
たしかに商店街に買い物に行くと、使えないお店もある。佐藤さんが挙げるキャッシュレスが普及していない三つの理由の一つもこれだ。使える店が少ないこと。でも、これは最近かなり改善されたという。
「昨年10月の消費増税に合わせて、政府は中小事業者を中心にキャッシュレス決済のポイント還元事業を始めました。今年6月で終わってしまいましたが、これは、訪日外国人たちから『現金しか使えないのは不便だ』という不満の声があり、それを解消する狙いもありました」
「でも不便なのは、日本人も一緒ですよね。百貨店では使えるけど、中小事業者の店で使えない。今回の事業で、キャッシュレス決済を導入した中小事業者はかなり増えました。なおかつ、(ソフトバンクグループ系の)PayPay(ペイペイ)などの決済事業者が、積極的に加盟店を広げる営業をかけたのも大きいですね」
そして二つ目の理由は、政治・行政も長らく現金ベースだったことだという。率先して電子化を進めてこなかったためにキャッシュレス普及が遅れたのではないか、と佐藤さんは指摘する。
海外からの訪日客はキャッシュレスを多く使うのに、なぜ日本人はあまりキャッシュレス決裁を使わないのでしょう。後半では、日本に根付いた「価値観」に触れながら理由をよみとき、キャッシュレスの未来を探ります。
では、三つ目の理由は何か。
「それは消費者の意識です。私たちは現金を使う習慣に慣れていて、現金を使うこと自体がステータスだと思っています。例えば、テレビ番組で芸能人が財布に札束が入っているのを見せたりする場面があるじゃないですか。財布の中にしっかりと現金がある。これがかっこいいという意識が日本に長く根付いていると思います」
うーん、でも現金をもつことがステータス、という考えは海外の人にも共通しそうですが……。
海外で広がる「究極のキャッシュレス社会」
「例えば中国では、若い人ほど財布を持っていないようです。全て(スマホ決済の)アリペイやウィーチャットペイで済みますから。中国の場合は、キャッシュレスは現金より圧倒的に便利なんです。一番の高額紙幣が100元で、日本円に換算すると約1600円。1万円札のような高額紙幣がないので、高価な物を買う時は紙幣をたくさん持っていかなきゃいけない」
財布を持たないなんて。私は昨年財布を買い替えたばかりなのに。
「スウェーデンでは、全ての経済活動の中における現金の取扱金額は1%を切っています。オーストラリアも同様です。今や究極のキャッシュレス社会が登場しようとしているわけです。韓国は国主導で急速にキャッシュレスを広げ、今や普及率は9割近い。日本政府は将来的にキャッシュレス普及率を80%にすると言っていますが、政府がやろうと思えばすぐにできる。消費者とインフラが変われば、あっという間に浸透すると思います」
キャッシュレスの普及は望ましいけれど、商店街で取材すると「決済手数料が高い」と難色を示す店主も多かった。このハードルは高いのではないだろうか。