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車城下町に走る激震、受注「半減以下」町工場の焦燥
新型コロナウイルスの感染拡大で、世界中に工場や販売網を広げる自動車産業が大打撃を受けている。トヨタ自動車など日本の大手自動車メーカーの国内工場が、稼働停止を余儀なくされた。工場がある企業城下町の下請け部品メーカーも非常事態に直面している。
トヨタが完成車をつくる国内全15工場を一時停止すると発表した4月中旬。自動車部品を溶接する名古屋市の永野製作所の薄暗い工場では、横一列に並ぶ7台の機械のうち5台を止めていた。
「ガン、ガン」と鈍い金属音が響く。従業員10人の工場だが、作業しているのは2人だけ。いつもは部品の入ったカゴがところ狭しと置かれているが、この日は隅の方にまとまっていた。社長の永野義治さん(45)は「こんなに片付いて正月みたいだ」と苦笑いした。
売り上げが目に見えて落ち始めたのは、トヨタが欧州や北米で工場を止めた3月から。やむなく週の半分を休業日にし、4月の売り上げは2月と比べて4割ほどに落ちこみそうだ。取引先からは5月の発注が半分以下になるとも内示された。永野さんは従業員が少しでも長く働けるよう作業を外れたが、緊急事態宣言が出ているため、営業に出るのも自粛し、事務所で待機するしかない。1日に吸うたばこの本数が増えるばかりだ。「影響が長期化すると考えれば、人件費を今から減らしていくしかない」
バブル期の1988年の創業。トヨタや三菱自動車の3次下請けとして扱う部品は100種類超ある。「一つの不良品も出さない」を信条に品質管理を徹底してきた。ただトヨタの動きに合わせ、元請けの部品メーカーが愛知県外の拠点を増やしていることもあり、この10年ほどは減収が続き「ギリギリ黒字の状態」だった。3月以降の経営は厳しく銀行に数千万円単位の融資も依頼した。「夏ごろまでなんとか耐え、状況が好転することを願うしかない」
稼働率「悲惨な状況」
トヨタ車に搭載されるエンジンで使うネジなどを手がける愛知県内の2次下請けでも、従業員約30人が普段通り出勤しているが、60代の社長は「稼働率が悲惨な状況」と声を落とす。3月の売り上げは前年比約2割減で、5月以降は「半減するのでは」。
ネジを組み込んだエンジンは完成車に搭載され、海外にも輸出される。だが、世界中で新車需要に急ブレーキがかかり、日本からの輸出も減少しているため、国内工場の稼働率はおのずと下がる。
社長は、手元資金と銀行借り入れで当面はしのげるというが、従業員を休業させて雇用調整助成金の申請を検討中だ。「従業員は家族。本当はしたくないが、そうもいっていられない」
愛知労働局にもこの助成金の問い合わせが相次ぎ、4月中旬までに自動車関連を含む製造業で約100件の申し込みがあった。担当者は「規模の小さな下請け企業からの問い合わせが特に増えている」と語る。
車1台には約3万点の部品が必要で、完成車メーカーを頂点に大手部品メーカー、中小・零細の町工場まで張り巡らされたサプライチェーン(部品供給網)に支えられて、大手の競争力の源泉となっている。工場に生産設備を納めるメーカーや設備の維持・補修、部品の運送業や工場に出入りする清掃や飲食業など、裾野が極めて広い。自動車の業界団体によると、全就業者の1割弱の546万人が車関連で働くという。
帝国データバンクの2019年の調査によると、トヨタグループと直接取引がある1次下請けは6091社、2次下請けを含めて計3万8663社で、おひざ元の愛知県が約2割を占める。マツダの工場がある広島県や山口県、スバルの工場がある群馬県なども同様で、完成車メーカーと連なる下請けは地域経済の浮沈を左右する。
最大の車城下町では
日本最大の製造業の集積地域の屋台骨をコロナ・ショックが揺るがし始めた。
三菱自動車岡崎製作所(愛知県岡崎市)。スポーツ用多目的車(SUV)などをつくる同社の国内の主力工場は23日、従業員が次々と正門に向かい、活気のある朝を迎えていた。
同製作所は17日まで、海外需要の急減をうけ、稼働を一時とめたうえで、従業員は一時帰休。再び生産を始めたが、約9割は海外向け。ある男性従業員は「需要が冷え込んでおり、この先どうなっていくか分からない」と心配する。
地元の岡崎商工会議所は「トヨタや三菱の影響が大きい(地域)。今後どの程度生産を減らしていくのかがポイント」と注視する。
自動車産業はこれまでも繰り返し危機を経験した。
2008年のリーマン・ショック時は、需要が急減して大幅に減産。先行きを見誤り、在庫の山を抱えるメーカーも出た。東日本大震災では基幹部品をつくる企業が被災し、部品供給網の混乱で長期の減産を余儀なくされた。