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https://digital.asahi.com/articles/ASN8W4RW7N8TUCFI00G.html
最期まで寄り添ったお母さんとチビ 猫2匹との至福の時
特別養護老人ホーム施設長 若山三千彦さん
今回は、2匹の猫と暮らし、看取(みと)ってもらったKさん(享年94)のケースを紹介しましょう。Kさんが自宅にいるころから飼っていた猫で、「お母さん」「チビ」(いずれもメス)と呼んでいました。希望通り2匹と添い遂げることができました。
Kさんは長年犬を飼っていました。でもご自身が高齢となり、奥さんが亡くなると、手間がかかる犬を飼うのをやめ、猫を飼うことにしました。近隣の野良猫を保護する形で、2匹の猫を飼い始めます。本人は2匹を親子のように思い、「お母さん」「チビ」と名づけました。ただ実際に親子かどうかは不明です。
肺の病気での入院を経て、2015年9月、山科に入居しました。入院中は近所にいる保護猫活動をする人たちが、Kさんのお宅を訪れ、猫の世話をしていました。2匹のうちお母さんは、Kさんと一緒に入居したのですが、チビは1カ月遅れでの入居でした。チビは元野良猫だからか、Kさん以外に誰にも懐きません。Kさんは病院から直接ホームに入居したので、猫たちは、保護猫活動の人たちが連れて来ました。しかし連れ出そうとKさんのお宅に行くと、チビは隠れてしまうのです。
やっとのことでチビを「捕獲」し、Kさんと猫たちの穏やかな生活が、また始まりました。でも人見知りのチビは、ホームにきても、彼の居室からは全然出て来ません。職員が居室に入ると隠れてしまい、姿を見せないので、職員にとっては「幻の猫」でした。
もちろんKさんにとっては「幻の猫」ではなく、可愛い我が子です。ベッドで寝ているときは、いつもお母さんとチビが寄り添っていました。いえ、職員はお母さんが寄り添っている姿しか見ていないのですが、Kさんのお話から、チビも一緒にいることがわかりました。2匹にご飯をあげるのは、彼にとって至福の喜びでした。いつも手のひらにキャットフードを乗せ、直接食べさせていたそうです。お母さんとチビが幸せそうに、Kさんの手から餌を食べている姿が目に浮かびます。
Kさんは、よく2匹を連れ、ホームの喫茶店イベントにも参加しました。元々は愛犬家だったこともあり、ほかの入居者の犬を可愛がることもありました。居酒屋イベントでお酒を飲むのも、楽しみにしていました。
しかし、Kさんは徐々に衰弱していき、17年10月22日、肺気腫による慢性心不全で亡くなりました。亡くなるときは職員がいたため、お母さんは枕元にいましたが、チビはいませんでした。しかし最後のころになると、職員がいてもチビが姿を見せることがまれにありました。職員たちは、Kさんにチビが寄り添っている姿を初めて目撃しました。
彼の死後、2匹の猫はホームでそのまま暮らしました。いずれも高齢で、チビは約1年後に亡くなりました。Kさんとチビは今ごろ、亡くなったペットと飼い主が再会するとされる「虹の橋」で会って、一緒にお母さんを見守っていることでしょう。