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https://digital.asahi.com/articles/ASN8X33S8N8WPLBJ006.html
水筒にスポドリ、金属が溶ける?大事なのはお手入れ
厳しい暑さが続く中、熱中症予防にスポーツドリンク(スポドリ)を水筒に入れて持ち歩く人もいる。ところが、こうした使い方をすると「金属が溶け出すこと」があると、厚生労働省が呼びかけた。はたして本当なのか、全国魔法瓶工業組合(大阪市)やメーカー、専門家に聞いてみた。
過去の腹痛事故、実は…
厚生労働省は7月8日、食品安全情報の公式ツイッターで「金属製の容器(ヤカンや水筒)は酸性の飲み物と反応し、金属が溶け出すことがあります。金属製の容器にジュースやスポーツ飲料を入れる時は、注意書きをよく確認しましょう!」と発信した。
担当者は「容器の中に傷やサビがあると、スポドリや果汁飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料などによって金属が溶け出す可能性がある。長時間の保管は避けてほしい」という。
あるメーカーの水筒の説明書を読むと「スポーツ飲料を入れた場合は、使用後、すぐにお手入れをする」「カビの発生やサビや穴があくなど故障の原因」などとある。
今年7月には、大分県臼杵市の高齢者施設で、やかんに入ったスポドリを飲んだ高齢者13人が、吐き気や下痢などに苦しんだ。飲料から高濃度の銅が検出された。やかんで水道水を沸騰させた後、スポドリの粉末を入れて提供していた。
スポドリは酸性の飲料だが、ステンレス製のやかんが溶けたのか。実は県は、やかんが直接溶けたのではなく、水道水を繰り返し沸騰させる中、水にわずかに含まれる銅が、やかんの内側に蓄積し、スポドリと反応して溶け出たとみている。県によれば、やかんは9年使用され、中が黒ずんでいた。
一方、東京都では2008年、水筒に6時間以上入っていたスポドリを飲んだ6人が頭痛や吐き気を訴え、飲料から高濃度の銅が検出された。都の資料によれば水筒は破損していたとみられる。そのため、通常なら飲料と接しない部分に使われていた銅が、破損部分からしみこんだスポドリに溶け出たと考えられた。
こうした事故は、よく起きるのだろうか。大手水筒メーカーなどでつくる全国魔法瓶工業組合によると、国内で流通する魔法瓶の水筒は、大半がステンレスでできている。魔法瓶は、内びんと外びんの2重構造で、熱が伝わりにくい。さらに、内びんの外側に銅などのメッキをしたり金属箔(はく)を巻きつけたりして、熱を反射させている。そのため、銅が使われた製品で内部が破損すると、酸性飲料が入りこんで溶け出す可能性はある。
ただ、同組合加盟メーカーのステンレス製水筒の国内出荷本数は年間1800万〜2千万本に上るといい、担当者は「事故の報告はほとんどなく、確率は極めて低い。製品の注意書きに従って使用後に手入れをすれば、金属中毒は起こらない」と強調する。
ステンレスも腐食する?
魔法瓶は、かつては割れやすいガラス製が主流で、ガラス職人が多かった大阪が製造の中心だった。1978年に日本酸素(現サーモス)が、国産初の高真空のステンレス製魔法瓶を開発してから、ステンレス製が主流に。割れにくく、運動用やアウトドア用などとして普及が進んだ。
主なメーカーも、スポドリを水筒に入れること自体は問題ないとしている。
象印マホービン(大阪市)の広報担当者は、「スポーツドリンク対応の商品を使用してほしい」と話す。同社製の水筒の内側は、腐食を防ぐためフッ素でコーティングされているが、スポドリ対応の商品は2倍の量が使われている。日頃の注意点として、@飲み物はその日のうちに飲み切る、A使用後はよく洗う、B汚れが目立ってきた際は専用の洗浄剤で洗うことを呼びかける。「常識的な使用をしている限りは金属中毒は起こりえないと考えております。これまでも弊社商品を使用中に金属中毒が起きた例はございません」
タイガー魔法瓶(大阪府門真市)の広報担当者は、ステンレス製の水筒の内側にはフッ素を使用していないが、表面の凹凸をできるだけなくした「スーパークリーン加工」がされているため、「ステンレスが腐食しづらく、スポーツ飲料を入れても基本的に問題ない」とする。ホームページ上では、「スポーツ飲料の成分には塩分が含まれており、ステンレスが腐食する可能性がありますので、使用後はすぐにお手入れをしてください」と呼びかけている。
サビや破損にご用心
近畿大の北岡賢(さとし)准教授(有機化学)は「金属の中でも銅はイオン化されにくく、溶液に溶け出しにくい性質を持っている。仮にスポーツ飲料が入った水筒の中に銅があったとしても、銅は溶け出しにくいと考えられる」と話す。
ただ、サビには注意が必要になる。水筒に使われるステンレスは、さびにくいように鉄にクロム、ニッケルなどを混ぜた合金だが、劣化すると鉄が表面に出てきて酸化し、サビになる可能性があるという。