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https://digital.asahi.com/articles/ASNBF4CVHNB9ULFA012.html
日立金属、検査不正の調査中に売却手続き入り 疑問視も
日立製作所が子会社で金属大手の日立金属を売却するための手続きに入ったことがわかった。日立金属では4月に大規模な検査不正が発覚し、いまも特別調査委員会が調査を進めている。検査不正の調査と売却準備を同じタイミングで進めている格好で、専門家からは疑問視する声もあがっている。
関係者によると、日立製作所は、日立金属の売却先の候補として、企業や投資ファンドなどと論点整理などの準備に着手しているという。日立金属の時価総額は約7千億円。保有する同社の株式53%分をすべて手放す方向とみられる。
日立製作所は昨年5月に発表した2021年度までの中期経営計画でIT事業を新たな柱に据え、事業再編を進めている。日立金属はIT事業との親和性が低いとされ、近く売却されるという観測がでていた。
一方、今年4月に発覚した日立金属の検査データ偽装では、「管理職レベルも関与し、10年以上前から続く」ことが判明。社外の弁護士らでつくる特別調査委が調べており、20年度内に結論を出す見通しだ。
日立金属は、中国の景気減速の影響などから売上高の半数を占める自動車向け製品の売上高が落ち込んだことや、固定費削減が進んでいないことから20年3月期の純損益が376億円の赤字だった。さらに新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、21年3月期も純損益で120億円の赤字を見込むなど、業績が低迷している。日立製作所としては、グループ全体の収益の足かせになる日立金属の売却を急ぐため、不正の調査が終わり次第、速やかに売却ができるよう準備しているとみられる。
ただ、不正の調査を抱えながら売却準備を進めることに対し、埼玉学園大の花崎正晴教授(企業統治)は「不正を調査中ということが売却価格を下げる要因になり、他の株主の利益を害する可能性がある」と指摘する。証券アナリストからは「いいか悪いかを判断し価格をつけるのは最終的には市場。ただ印象はよくない」との声も出ている。
日立金属では、不正の発覚を受け、5月には当時の佐藤光司社長や前社長の平木明敏取締役ら役員5人が引責辞任し、日立製作所専務から4月に日立金属会長に転じた西山光秋氏が社長を兼ねている。日立金属の扱いについて日立製作所の河村芳彦執行役専務は7月、「具体的な検討が始まるのは調査委員会の結論待ち」と述べていた。