https://digital.asahi.com/sp/articles/ASQ1L6WBNQ15PTIL012.html 玉露のカフェインで目覚まし? 「非常識」な飲み方で大学生が商品化
高級日本茶「玉露」の「常識外れ」とされる飲み方を、大阪大学の学生が提案している。玉露を手軽に、コーヒーやエナジードリンク代わりに飲んでほしいという。日本茶の老舗や茶道の家元からも応援され、新しい商品を作り上げた。
玉露に高温の熱湯?
専用の紙コップに熱湯を注いで揺らし、30秒待つ。「これだけです」、阪大外国語学部3年の堀川心之祐(しんのすけ)さん(22)はそういうと、音を立ててお茶をすすった。
紙コップの底には粉砕された玉露の茶葉があり、その上にはフィルターが仕込まれている。お湯を入れたり、紙コップを傾けたりしても、茶葉が浮き上がってこない仕組みだ。熱湯を入れ直せば、計3杯まで飲める。値段は1個170円(税込み)だ。
この茶葉付き紙コップの名前は「めざまし玉露」。玉露には、眠気を抑えるとされるカフェインが特別多く含まれる。そこに注目した商品だ。
食品安全委員会によると、100ミリリットルあたりコーヒーは60ミリグラム、エナジードリンクは32〜300ミリグラムのカフェインを含む。一方、玉露は160ミリグラムを含んでいる。
「さらに、日本茶は高温のお湯で入れるとより多くのカフェインが出るといわれています」と堀川さん。目覚まし効果を高めるため、沸かし立ての熱湯を入れることをすすめている。
開発のきっかけは約1年半前。同級生が煎茶道をしている縁で、京都府宇治市の茶畑を見学した。現地では茶の栽培をやめて雑草だらけになっている土地が目についた。農林水産省の作物統計によると、農家の高齢化や若者の茶離れで、全国の茶の栽培面積は20年前と比べて2割減っているという。
一部の企業は門前払いも、老舗は「お茶の多様性広げる」
堀川さんはそれまで、眠気覚ましのためにエナジードリンクをよく飲んでいた。自然由来のお茶で代用できれば、若者の健康にも、自然環境にとってもいいのではないか――。このアイデアは、阪大が主催する関西の若者向けのビジネスコンテストで複数の賞を受賞するなど好評を得た。
玉露に熱湯を入れるのは、日本茶業界では「非常識」だった。
玉露はうまみを増すため、茶葉を覆って日光を遮るという工程を加えている。しかし、熱湯を入れるとカテキンと苦み成分のカフェインが多く抽出され、せっかくのうまみを邪魔してしまう。だから、低温のお湯で入れるのが一般的だ。
堀川さんはめざまし玉露の企画を約30の企業に持ち込んだが、門前払いされることも多かった。
そんな中、お茶の老舗「宇治園」(大阪市中央区)と、食品包装会社「吉村」(東京都)が興味を示した。宇治園は茶葉を、吉村はフィルター付き紙コップを提供。クラウドファンディングで資金を募ると約80万円が集まり、商品化につながった。
宇治園の重村勝会長は、「ぜいたく品とされてきた玉露に手軽さや効能を求めるのは、お茶屋にはない発想だ。お茶の多様性を広げる試みだと思う」と話す。
堀川さんに煎茶道を教える小笠原秀邦(しゅうほう)家元嗣(いえもとし)(53)は、めざまし玉露を飲んで「おいしい」と評価する。茶葉を少なめにしたことで、熱湯で入れても飲みやすくなっているという。「若い人がお茶に親しむきっかけになってほしい」と期待する。
堀川さんは「眠気覚ましに飲むことが習慣化し、そのうち日本茶そのものを好きになる。そんな人を増やしたい」と意気込む。