この「自衛隊感謝決議」に日本共産党が自民党などとともに賛成したことは、沖縄県内にも衝撃を与えました。
「共産党は…賛成した。これまでの自衛隊に対する党の立場とどのように整合を図ったのか分かりづらい」(27日付琉球新報社説)
決議に賛成したことにつて共産党那覇市議団の古堅茂治団長は、「1万人の命が救われており、災害と一緒だ。離島地域が多く、医療が不十分な中で役割を果たしたことに感謝をするのは当然のことだ」(26日付琉球新報)と述べています。
岸信夫防衛相は、「党派を超えて可決され、私としても大変喜ばしい」(29日付沖縄タイムス)と共産党の賛成を歓迎しています。
共産党は先日、「急迫不正の侵略がされた場合には自衛隊を含めてあらゆる手段を用い(る)」(10日、志位和夫委員長)と「自衛隊活用」論を表明したばかり。それに続く「自衛隊感謝決議」への賛成は、同党の右傾化をはっきり示すものです。
見過ごせなのは、こうした自衛隊美化は、共産党だけではなく、「民主的」と思われているメディアや「識者」の間にも広がっていることです。
琉球新報は27日付で、「議論は尽くされたのか」と題した社説で「自衛隊感謝決議」に疑問を呈しました。しかしそれは、「感謝の示し方はほかになかったのか。なぜ全会一致にならない決議という形になったのか」を問題にしているもので、むしろ「沖縄では日本復帰後、自衛隊に根深い反発があった。これが薄れ、社会への受け入れが進んだのも、民生分野で果たしてきた役割の大きさがある」と自衛隊の活動を評価しています。
また、佐藤学沖縄国際大教授も、「「感謝」という言葉が一人歩きし、対中戦争の前面に自衛隊を立たせるという方向性を後押しすることに利用されてはいけない」と指摘しながら、「沖縄の救急医療に果たす自衛隊の役割はまともであり…県民の中で自衛隊に対する抵抗感が減り、沖縄社会で受け入れられてきたのは間違いないだろう」(26日付琉球新報)と述べています。
こうした自衛隊美化論はもちろん沖縄の「民主的識者」だけではありません。
ウクライナ情勢に便乗して自民党内で改憲策動が強まっていることについて、「九条の会」世話人の田中優子・法政大前総長はこう述べています。
「九条は自衛権を否定していないし、(憲法を)変えなくても自衛できる。万が一、ロシアが日本に攻めてきた場合、自衛隊は自衛する」(3月16日付東京新聞インタビュー)
こうした自衛隊の評価は、その本質を見失った危険な自衛隊美化論です。
自衛隊は疑問の余地のない軍隊です。したがってそれは、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」という憲法9条第2項に明確に違反します。自衛隊は正真正銘、憲法違反の軍隊です。これが自衛隊問題の原点です。
災害や医療救助はそれを専門とする組織を充実させておこなうべきで、それを自衛隊に肩代わりさせているのは、憲法違反の軍隊を市民に受け入れさせるための政治的策略であることは今更言うまでもありません。
自衛隊への「感謝決議」はもちろん、「民生分野」の活動だといって評価したり、「自衛戦」に期待するのは、その政治的策略に同調することにほかなりません。
ウクライナ情勢に便乗して自民党などが自衛隊を憲法に書き込む改憲策動を強めているとき、こうした自衛隊美化論がかつてなく危険な役割を果たすことを直視する必要があります。