若い世代が「紙の本」にこだわる理由
マンガが初めて英語圏の市場に進出したのは1970年代だが、ここ数年の驚異的な普及の背景には、さまざまな要因がある。
まず、NetflixやAmazonといった動画配信サービスがアニメの配信数を増やしたことが挙げられる。とくに既存の日本マンガをアニメ化した作品だ。
ロックダウンで自宅に閉じ込められたティーンエイジャーは、『東京喰種 トーキョーグール』や、『進撃の巨人』、『僕のヒーローアカデミア』、『鬼滅の刃』といったアニメシリーズに夢中になった。
やがて視聴者は、こうしたアニメの原作が大半はマンガであることに気づいた。しかも、これらの作品は単行本が何十巻も続いており、お気に入りのキャラクターの世界が延々と展開しているのだ。
「デジタル版の売り上げもコロナ拡大に伴って飛躍的に伸び、2022年も増加傾向にあります」とハムリックは言う。「でも実物の代わりにはなりません。読者は紙の本を欲しがります。コレクションして、SNSに写真を投稿するのです」
SFマンガやファンタジーマンガを販売するニューヨークの書店「フォービドゥン・プラネット」では、マンガが新たな人気を獲得したことで客層が変化しているという。
「本当にさまざまな客が来るようになりました」と語るのは、同店のコミックバイヤー、ジェイミー・ビーチングだ。
「数年前までは、10代後半や30代、40代の男性が多かったのですが、いまでは小学生の子供も大勢見かけます。学校帰りに店に立ち寄るのですが、みんなすごくはしゃいでいますよ。ものすごく熱心で、物知りなんです。10代前半の子も多いですね。それくらいの年齢の子供は、何かに夢中になると、本当に入れ込みますから。
それにマンガは、従来のグラフィックノベルよりずっと安価です。白黒で、たいがい質の悪い紙に印刷されているので、比較的安い金額でかなり多くのページ数が手に入ります。そのため、お小遣いを貯めている若者は、たくさんのマンガを買うことができるのです」
英ストックポート在住のニア・エウィントン(17)は、アニメからマンガに入り、最初に『進撃の巨人』を読んだと話す。「すごく人気があって、SNSのあちこちで話題になっていました」
「ストーリー展開が面白くて、どの登場人物にも魅力的な背景があるんです。ほかの漫画と全然ちがうので、とても目立っています」。彼女がいまハマっているのは『呪術廻戦』だが、まだ全巻は読破していないと言う。
「アニメが追いついていないので、先回りして読むのが嫌なんです」
イザベラ・ガーサイド(13)は、何か新しいものはないかと探していたときにマンガに出会ったという。目下のお気に入りは『デスノート』だ。「気持ちを揺さぶられます」と彼女は言う。「すらすら読めちゃいます」
マンガは次々と新たなジャンルに手を広げている。『僕のヒーローアカデミア』のような古典的スーパーヒーローもの、『呪術廻戦』のようなホラー。アクションが読みたければ『チェンソーマン』。『ピンポン』のような文学的な物語もあれば、『ボーイズ・ラン・ザ・ライオット』や『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』のようなLGBTQ+の話もある。
料理マンガには、「お色気フードコメディ」と銘打った『食戟のソーマ』、また若い女の子向けには恋愛や高校生活のドラマを描いた少女漫画がある。