奈良市の「三笠霊苑」で、1日に除幕された安倍晋三元首相の慰霊碑「留魂碑(りゅうこんひ)」は、紆余(うよ)曲折を経て完成にこぎつけた。
同市が昨年10月に現場の近鉄大和西大寺駅北側に慰霊碑の設置を見送る方針を示して以降、
県内の自民党議員ら有志は慰霊碑建立に向けてさまざまな案を模索したが、現場付近の住民感情もあり難航。
結局、安倍氏の一周忌を前に現場から約5キロ離れた場所に設置することになり、関係者らは安堵(あんど)する一方で複雑な思いも抱える。
「ご恩に報いるために、安倍先生を慕う方々が気持ちを寄せられる場所をつくることが大事だと思って活動してきた」
慰霊碑建立を中心となって計画してきた佐藤啓参院議員は、除幕式後に報道陣の取材に応じ、真剣な表情でこう語った。
自身の応援演説中に安倍氏が銃撃されただけに、建立にかける思いはひと際強かった。「さまざまな議論を踏まえながら、建立にふさわしい場所を探ってきた」と振り返った。
慰霊碑を巡っては、奈良市の仲川げん市長が発生直後に現場付近での設置を検討したが、昨年10月に設置を見送る方針を表明。
議員らは周辺私有地での建立を模索したが、所有者からは事件に対する負のイメージを懸念する意見があり、交渉はなかなか前進しなかった。
そうした中で建立地として浮上したのが、若草山のふもとに位置する三笠霊苑だ。
自然に囲まれた傾斜地で、西に開けた高台からは現場がある西大寺方面を見渡すこともできる上、静かな環境で慰霊の場にふさわしいと判断した。
関係者によると、一周忌に間に合うよう6月初旬ごろから本格的に建立に向けた準備が始まった。
設置に反対する人からの妨害リスクも懸念されたため、計画の詳細は完成まで明らかにされなかった。
1日の除幕式も奈良県警による厳重な警備態勢のもと非公開で行われた。
地元議員は「いろいろとあったが、何とか今日を迎えることができて良かった」と安堵の言葉を口にした。
一方で、現場への慰霊碑建立を望む声も依然、多くある。
議員の1人は「じくじたる思いだ」と厳しい表情を浮かべる。
事件の重大性や安倍氏の事績をより迫真性を帯びて伝えるためには、現場近くに設置する必要があるとの思いもある。
「できるなら、現場付近に設けたいという思いは変わらない。引き続き設置できる方策を探っていきたい」と話した。